有名事件のあらましや活躍した著名人のエピソードを中心として、フランス革命の経過を「物語」風に語っていく著作。
中公新書から出版されている本ですが、学術的な知識や思考を大衆に伝えるための本というよりは、世界史の教科書やwikipediaを詳しくしたような内容になっております。
私もフランス革命の知識は高校の世界史止まりであり、「バスチーユ」や「ジャコバン派」、「ロベスピエール」といった穴埋め問題を解くレベルの断片的な文言だけが頭の中にある状態でしたが、本書を読むことで、フランス革命という出来事全体が「物語」として頭の中で繋がっていく感覚を得ることができました。
目次
序章 フランス革命とは
第1章 「古き良き革命」の時代
第2章 革命的動乱の時代へ
第3章 国王の死
第4章 ジャコバン政府の時代
第5章 恐怖政治ー革命政府の暗黒面
第6章 ナポレオンの登場
感想
ルイ16世の治世下で始まった財政改革が民衆の怒りに火をつけ、最後は王政を打倒するにまで至ったフランス革命。
バスチーユ牢獄襲撃の成功によって深まる大衆の自信、ヴァレンヌ逃亡事件による国王権威の失墜、激化する議会での主導権争いにジロンド派が敗れ、ジャコバン派による独裁が始まる。
そして、今度はジャコバン派に対して不満を抱き始めた人々によりジャコバン派政府も倒され、最終的にはナポレオンが皇帝に就任して安定的な体制を構築していく。
これが約10年間にわたるフランス革命の概要ですが、この間には様々な英雄的人物が登場しては(しばしば死亡という形で)嵐のように消え去っていき、およそ10年という歳月で為されたとは思えないほど劇的なドラマが大量に発生します。
善意の国王だったからこそ斃されてしまったルイ16世。
当時の王侯貴族としては標準的な存在だったからこそ、高飛車な印象を後世に植え付けることになったマリー・アントワネット。
ジロンド派のフィクサーであったロラン夫人。
ジャコバン派を主導したロベスピエール、マラー、ダントン。
そして、革命に終止符を打ちフランスを再び強国へと導いていくナポレオン。
それぞれの出来事、それぞれの人物についてどこかで聞いたことはあっても、こういう出来事だった、こういう人物だった、という情報を上手く言葉にできる人は少ないでしょう。
そんな人がフランス革命について知りたいと思ったとき、wikipediaよりも読みやすくまとまっていて、wikipediaよりも深い知識を得られる本が欲しいと思ったときに、本書はうってつけです。
フランス革命という時代において、様々な出自の人物が宮廷や議会、戦場でどう活躍し、どう散っていったかが適切に概観できる内容になっており、この「様々な出自の人物が……活躍し……散っていく」というドラマ性が重視されているところが本書の良いところです。
そういった「物語」としての工夫によって、まるで面白い小説を読んでいるかのように読み進められます。
マリー・アントワネットやロラン夫人はもちろん、ルイ16世の妹であったエリザベトのような、ややマイナーながらも、大きなドラマをその人生に持っている人物にスポットライトを当てているのも印象的です。
まさに、フランス革命の面白いところだけを上手く抜き出した著作と言えるでしょう。
さらには、「ルイ16世が友人の公爵にたたき起こされる」、「武装した反乱軍が議会に押しかける」、「高級娼婦を経て貴族の愛人になる」といった、現代の感覚では微妙に分かりづらい当時の人々の交流関係であったり、貴族とブルジョア、そして下層市民たちの距離感が示されているのもポイントです。
なかなか教科書では触れられない部分でもありますので、中近世ヨーロッパの政治や経済といった公的な側面以外を知りたいという欲求にも応えられています。
個人的には、思っていたよりも王族・貴族・平民が分断されておらず、やろうと思えば簡単に近づけるような雰囲気で著述されていたことが印象的でした。
地方から出ててきたばかりの平民娘がジャコバン派の有力議員であったマラーの自宅に侵入し、そのままマラーを暗殺してしまった事件は、その子細な経緯を読んでいても信じられないくらいです。
本作に出てくる具体的なエピソードの数々は「ぼんやりとした想像上の中近世ヨーロッパ」と「現実の中近世ヨーロッパ」とのギャップを埋めてくれることに違いないでしょう。
結論
フランス革命を概観するのに役立つ入門本になっていると思いました。
表題の通り、「物語」として読むのにも面白く仕上がっています。
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